粉瘤マスターに、俺はなる!【粉瘤物語:エピローグ】
世は皮膚疾患時代ーーー
ニキビ、イボ、おでき・・・そして、粉瘤。
この世の全てを手に入れたい男、劉蕡(リュウフン、齢24)の大冒険が今始まる・・・。
勇者、発つ
のどかな片田舎、アテロム市。
大都市から電車で40分、朝の通勤ラッシュを除けば、人並み以上の生活ができよう。
休日は家族サービスに精を出す父、優しい母、そこそこ可愛い妹、懐いているパグ。
しかし、劉蕡は満足していない。
生まれも育ちもアテロム市。このまま何も成さず、アテロム市で生き、そして老いていく自分の人生に耐えられなかった。
立身出世。
劉蕡は自分のことで精一杯だったからよくわかっていないようだが、世の中は皮膚疾患に満ち溢れている。
皮膚疾患に関する知識を身につければ食いっぱぐれない「大皮膚疾患時代」の到来。
小学生の義務教育にも導入されよう、皮膚疾患に関する知識。
そう、劉蕡は皮膚疾患で天下を取ると決めたのだ。
粉瘤とは、なぜ「粉」の「瘤」なのか。
皮膚疾患と一口に言っても広い。
なんでもかかってこいと意気込んでいた劉蕡の前に、黒ずくめの老婆が現れた。
「あんたの本当に知りたいことはなんだい?今なら通信講座、安くするよ。いや、待て書籍がいいのかい?それともインターネッツを見て独りで学ぶのかな?」
「コンクルージョンファースト。オプションを示してくれないと、スマートなディシジョンができないよ」
劉蕡のカタカナ語に白目を剥いた老婆は、一枚の紙をシュルシュルと投げつける。
次に白目を剥くは劉蕡の番だ。
「ニキビ、イボ、おでき、なんだこれ・・・そしてしぼうしゅ?」
劉蕡のコンプレックスを刺激したAtheromaの文字列。
TOEIC330点!
現在完了形でつまづいてしまった男!
「どうやら腹は決まったようね、あんたの本当に知るべき疾患は『ふんりゅう』よ」
恥辱で赤く染まった頬を横目に、老婆が右腕を高く天に突き上げた。
黒ずくめから生えてきたしわくちゃの腕は鮮やかな白樺。
「くらえ!!粉瘤ビーム!!」
老婆の叫びとともに、劉蕡は左肩に強い違和感を覚えた。
「ふんりゅう。そうか、これがふんりゅう…か」
みるみるうちに左肩が腫れていく裏腹に、自分の名前と似ているその5文字の響きに魅了されてしまった劉蕡。
しかし彼に待ち受けているのは、長い長い試練の旅だった。